ひとり広報とは?中小企業の一人広報が最初にやるべきこと10選

中小企業のひとり広報が最初にやるべきこと10選 広報の基礎

「今日から広報を担当してください」

そう言われたものの、社内に経験者はいない。引き継ぎ資料もない。そもそも広報が何をする仕事なのかも、いまひとつ分からない。

しかも、営業や総務、人事などの仕事と兼任——。

中小企業では、このような状態で「ひとり広報」が誕生することも珍しくありません。

広報の仕事には、プレスリリースの作成、SNSの運用、メディア対応、ホームページの更新、社内広報など、さまざまな業務があります。これらを最初から全部やろうとすると、広報担当者の予定表だけが立派に育ち、肝心の成果は行方不明になります。

ひとり広報に必要なのは、気合いや超人的な処理能力ではありません。

大切なのは、会社の目的を整理し、取り組む業務に優先順位をつけることです。

この記事では、ひとり広報の意味や役割、中小企業の担当者が最初にやるべきこと10選を分かりやすく解説します。

ひとり広報とは?

ひとり広報とは、社内の広報・PR業務を一人で担当する人、またはその体制を指す言葉です。「一人広報」と表記されることもあります。

公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会では、ひとり広報を「ひとりで企業の広報業務全般を担う広報担当者」と説明しています。

特に、広報部門に多くの人員を配置することが難しい中小企業やスタートアップでは、次のような形でひとり広報が置かれます。

  • 広報専任の担当者が一人だけいる
  • 営業担当者が広報を兼任している
  • 人事や採用担当者が広報も担当している
  • 総務担当者がホームページやSNSの更新も行っている
  • 経営者自身が会社の情報を発信している

つまり、正式に「広報部」に所属していなくても、社内外への情報発信を一人で担っていれば、実質的なひとり広報といえるでしょう。

なお、日本パブリックリレーションズ協会が2023年に実施した調査では、回答したひとり広報のうち、広報業務歴が5年未満の人が50.3%を占めていました。

経験が浅いまま広報を任され、「何が正解なのか分からない」と悩んでいるのは、あなただけではありません。

ひとり広報の主な仕事内容

ひとり広報が担当する業務は、会社の規模や目的によって異なります。代表的な仕事内容は次のとおりです。

  • 社内から広報ネタを集める
  • プレスリリースを作成・配信する
  • テレビ、新聞、Webメディアなどへ情報を提供する
  • 取材の窓口になる
  • 自社サイトやオウンドメディアを更新する
  • XやInstagramなどのSNSを運用する
  • 商品やサービスの紹介資料を作成する
  • 採用広報や社内広報を行う
  • メディア掲載やWeb上の反応を確認する
  • 広報活動の成果を社内へ報告する

詳しい業務内容は、PR Compassの「広報担当者の仕事内容とは?1日の流れから必要なスキルまでを解説」でも紹介しています。

こうして並べてみると、なかなかの仕事量です。

文章を書いて、写真を撮って、SNSを更新して、記者と話して、アクセス数を集計して、社内から情報を集める。油断すると「広報担当者」というより「だいたい何でも屋」になります。

だからこそ、最初からすべてに手を出してはいけません。

ひとり広報の強み

ひとり広報には、人手が少ないという弱点がある一方で、小規模な体制だからこその強みもあります。

意思決定が速い

担当者が少ないため、社内の承認ルートさえ整っていれば、企画から実行までスピーディーに進められます。

社会の関心やニュースに合わせ、素早く情報を発信できることは大きな強みです。

会社全体の情報を把握しやすい

経営者や各部署との距離が近い中小企業では、会社の動きを横断的に把握しやすい傾向があります。

大きな発表だけでなく、現場の工夫や社員の活躍など、小さな広報ネタを見つけられるのもひとり広報の魅力です。

発信の方向性を統一しやすい

同じ担当者が継続して発信するため、会社のメッセージや文章の雰囲気を統一しやすくなります。

「この会社は何を大切にしているのか」が伝わる発信を積み重ねることで、自社らしいブランドイメージをつくれます。

ひとり広報が抱えやすい悩み

一方で、ひとり広報には次のような悩みもあります。

  • 何から始めるべきか分からない
  • 業務の優先順位を決められない
  • 社内から情報が集まらない
  • 相談できる相手がいない
  • 発信内容を客観的に確認できない
  • 広報の成果を数字で説明しにくい
  • ほかの仕事に追われ、広報の時間を確保できない

特に注意したいのが、担当者だけに広報を丸投げしてしまうことです。

広報担当者が一人だからといって、その人だけで広報活動を完結できるわけではありません。商品情報は開発担当者から、顧客の声は営業担当者から、会社の方針は経営者から聞かなければ分かりません。

「ひとり広報」とは、何もかも一人で抱える人ではなく、社内の情報と協力を一か所に集める司令塔なのです。

中小企業のひとり広報が最初にやるべきこと10選

ここからは、ひとり広報を任された担当者が最初に取り組みたい10項目を紹介します。

1.経営者と広報の目的を共有する

最初に行うべきことは、SNSアカウントの開設でもプレスリリースの作成でもありません。

まず経営者に、次のことを確認しましょう。

  • なぜ広報を始めるのか
  • 誰に会社を知ってもらいたいのか
  • 広報によって何を実現したいのか
  • 半年後や1年後にどうなっていたいのか

広報の目的には、認知度向上、売上への貢献、採用強化、企業イメージの向上、取引先からの信頼獲得などがあります。

目的が曖昧なまま始めると、社長はテレビ出演を期待し、担当者はInstagramのフォロワー数を追い、営業部は問い合わせ件数を求める——という、広報の三方向綱引き大会が始まります。

最初に目指すゴールをそろえておきましょう。

2.情報を届けたい相手を決める

次に、「誰に情報を届けるのか」を決めます。

主な相手として考えられるのは、次のような人たちです。

  • 見込み顧客
  • 既存顧客
  • 取引先
  • 求職者
  • メディア関係者
  • 地域住民
  • 社員とその家族

すべての人に同じ情報を届けようとすると、誰にも深く届かない発信になってしまいます。

例えば採用が目的なら、求職者が知りたい社員の働き方や職場の雰囲気を発信します。企業の認知度向上が目的なら、メディアがニュースとして扱いやすい取り組みを探します。

相手が変われば、伝える内容も使う媒体も変わります。

3.会社が伝えたいメッセージを言葉にする

「自社はどのような会社なのか」を、簡潔に説明できるようにしましょう。

最低限、次の質問には答えられる状態を目指します。

  • どのような商品・サービスを提供しているのか
  • 誰の、どのような悩みを解決しているのか
  • 競合他社との違いは何か
  • なぜこの事業を行っているのか
  • 社会にどのような価値を提供したいのか

専門用語や社内用語を並べるのではなく、初めて会社を知った人にも伝わる言葉にすることが重要です。

この基本メッセージは、会社概要、プレスリリース、取材対応、営業資料、採用ページなど、あらゆる場面で土台になります。

4.現在の発信状況を棚卸しする

新しい施策を始める前に、すでに会社が持っている発信媒体や素材を整理します。

  • コーポレートサイト
  • 商品・サービスサイト
  • 採用サイト
  • SNSアカウント
  • 過去のプレスリリース
  • 会社案内や営業資料
  • 商品・社員・経営者の写真
  • ロゴデータ
  • メディア掲載実績
  • 顧客アンケートや導入事例

古い会社情報や、何年も更新されていないSNSが見つかることもあります。

新しいSNSを勢いで開設する前に、既存の情報を最新の状態に整えることから始めましょう。アカウントだけ増やして更新が止まると、ひとり広報の仕事ではなく「デジタル廃虚」を増やす作業になります。

5.社内の情報収集ルートをつくる

広報ネタは、広報担当者の机の上から自然発生しません。

営業、商品開発、人事、経営者など、社内のさまざまな人が情報を持っています。まずは各部署のキーパーソンを決め、定期的に情報をもらえる仕組みをつくりましょう。

例えば、次のような方法があります。

  • 月1回、各部署に広報ネタを確認する
  • 社内チャットに広報ネタ投稿用の場所をつくる
  • 営業会議や商品会議に参加する
  • 新商品やイベントの予定を共有してもらう
  • 顧客から喜ばれた事例を営業担当者から集める

「何かネタはありませんか?」だけでは、たいてい「特にありません」で終わります。

「新しい取引先は増えましたか」「お客様からよく聞かれる質問はありますか」「最近変えた業務はありますか」と具体的に尋ねるのがコツです。

6.広報ネタを一覧にする

集めた情報を、発信候補として一覧にします。

中小企業でも、次のような出来事は広報ネタになります。

  • 新商品・新サービス
  • 新店舗や新拠点の開設
  • 他社や自治体との連携
  • イベントやセミナーの開催
  • 独自の調査結果
  • 導入事例や顧客の声
  • 社員の資格取得や表彰
  • 採用や働き方に関する取り組み
  • 地域貢献や環境への取り組み
  • 創業記念や利用者数の達成

「全国初」や「業界最大級」のような派手な話題だけがニュースではありません。

自社では当たり前に行っていることが、社外から見ると珍しい場合もあります。社内の小さな変化を拾い上げることが、ひとり広報の腕の見せどころです。

7.最初に取り組む発信手段を絞る

広報には、プレスリリース、SNS、オウンドメディア、メルマガ、イベントなど、さまざまな手段があります。

しかし、ひとり広報が最初から全部を運用するのは現実的ではありません。

目的とターゲットに合わせ、まずは1~2種類に絞りましょう。

例えば、認知度向上やメディア掲載を目指すならプレスリリース、採用強化なら採用ページとSNS、既存顧客との関係づくりならメルマガや導入事例が候補になります。

手段を増やすことより、選んだ発信を継続することのほうが重要です。ひとり広報の場合は、毎回ゼロから各媒体向けの素材を作るのではなく、1本のプレスリリースや社内ニュースをSNS・自社サイト・営業資料などへ再編集して使うと、限られた工数でも発信を続けやすくなります。具体例は「プレスリリースの二次活用10選」で紹介しています。

プレスリリースの基本については、「広報担当者必見!プレスリリースの仕組みと使い方」も参考にしてください。

8.確認・承認のルールを決める

広報活動では、会社の情報を社外へ発信します。誤った数字や未公開情報を出さないよう、公開前の確認ルールを決めておきましょう。

  • 誰が事実関係を確認するのか
  • 最終承認者は誰か
  • 何日前までに確認を依頼するのか
  • 個人情報や写真の掲載許可をどう取るのか
  • 問い合わせや批判が来た場合に誰へ報告するのか

確認する人が毎回変わったり、社長の承認待ちで数週間止まったりすると、発信のタイミングを逃してしまいます。

緊急時の連絡先も含め、簡単なフローを作っておくと安心です。

9.無理のない目標を設定する

広報活動を始めると、すぐに「テレビに出たい」「バズらせたい」という話が出てきます。

夢は大きくて構いませんが、それだけを目標にすると担当者の心が先に折れます。

最初は、自社でコントロールしやすい数字を目標にしましょう。

  • 月に集める広報ネタの数
  • プレスリリースの配信本数
  • 自社サイトの記事公開本数
  • 新しく接点を持ったメディア数
  • SNSの投稿数
  • 社内ヒアリングの実施回数

そのうえで、メディア掲載数、サイトへの流入数、指名検索数、問い合わせ数、採用応募数などの変化を確認します。

活動量と結果の両方を記録することで、「何をした結果、何が変わったのか」を振り返りやすくなります。

使えるお金と時間を一緒に整理するには、広報予算と社内工数の考え方を参考にしてください。

10.1か月ごとに振り返る

広報は、一度発信して終わりではありません。

最低でも月に一度、次の点を振り返りましょう。

  • 予定していた発信ができたか
  • 反応が良かったテーマは何か
  • 社内から十分に情報を集められたか
  • 問い合わせや取材につながったか
  • 来月は何を改善するか

成果が出なかった施策を、意地だけで続ける必要はありません。一方で、1回反応がなかったからといって、すぐに諦めるのも早すぎます。

小さく始めて、記録し、改善する。この繰り返しが、ひとり広報を強くします。

ひとり広報が最初の1か月で行うこと

最初の1か月は、次のようなスケジュールで進めるとよいでしょう。その後も場当たり的な運用に戻らないよう、会社の予定・季節要因・発信テーマを年間で整理しておくと動きやすくなります。具体的な作り方は「中小企業の年間広報計画の作り方|12か月のスケジュール例とテンプレート」で紹介しています。

1週目:目的を決める

経営者と話し、広報の目的、ターゲット、期待する成果を整理します。

2週目:社内の情報を集める

各部署へのヒアリングを行い、発信できそうなネタや今後の予定を一覧にします。

3週目:発信の準備をする

会社紹介文、写真、ロゴ、商品情報などを整理し、最初に使う発信手段を決めます。

媒体候補の調査と管理は、メディアリストの作り方を参考にしてください。

4週目:小さく発信する

自社サイトの記事やSNS投稿、プレスリリースなど、実行可能なものを一つ公開します。

最初の1か月で完璧な広報体制をつくる必要はありません。

会議と資料作成だけで1か月を使い切り、「まだ方針を検討中です」となるより、小さくても一度発信してみることが大切です。

ひとり広報がやってはいけないこと

ひとり広報が特に避けたいのは、次の3つです。

すべての媒体を同時に始める

SNSを何種類も開設し、ブログとメルマガも始めると、更新作業だけで時間がなくなります。

媒体ごとの役割を決め、続けられるものに絞りましょう。

広報担当者だけで情報を判断する

商品やサービスの内容を十分に確認せず発信すると、誤った情報を出すおそれがあります。

必ず社内の担当者と連携し、事実確認を行いましょう。

短期間で結果を求めすぎる

広報は、広告のように費用を支払えば必ず掲載されるものではありません。

発信と関係構築を積み重ね、少しずつ会社への理解や信頼を増やしていく活動です。最初から場外ホームランだけを狙わず、まずは打席に立ち続ける仕組みをつくりましょう。

まとめ:ひとり広報は「全部やる人」ではなく「会社をつなぐ人」

ひとり広報は、プレスリリース、SNS、取材対応、社内広報など、幅広い業務を担当します。

しかし、すべてを一人で抱え込む必要はありません。

最初に取り組みたいのは、次の10項目です。

  1. 経営者と広報の目的を共有する
  2. 情報を届けたい相手を決める
  3. 会社が伝えたいメッセージを言葉にする
  4. 現在の発信状況を棚卸しする
  5. 社内の情報収集ルートをつくる
  6. 広報ネタを一覧にする
  7. 最初に取り組む発信手段を絞る
  8. 確認・承認のルールを決める
  9. 無理のない目標を設定する
  10. 1か月ごとに振り返る

大切なのは、ひとりで頑張り抜くことではなく、経営者や社員を巻き込みながら広報活動を進めることです。

ひとり広報は孤独になりやすい仕事ですが、孤立してはいけません。

会社のなかにある情報を集め、社会へ届け、社外から得た反応を再び会社へ持ち帰る。その循環をつくることが、ひとり広報の大切な役割です。

いきなり完璧を目指さなくても構いません。

まずは社内に眠っている一つの話題を見つけ、発信するところから始めてみましょう。

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